植物生理学(長谷研究室)



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  個体の光応答と組織・器官間シグナル伝達
 植物は様々な光応答を示す。植物の光受容体は全て、ほぼ全身的に発現しているが、それぞれの組織・器官における働きがどのように異なり、それがどのように統合されるのか、ほとんど分かっていない。そこで我々は、この問題を解決するため、分子生物学的な手法を用いた解析を開始した。

 * 子葉のフィトクロムによる全身的な光応答制御
    ・ 胚軸におけるオーキシン応答遺伝子の発現制御
    ・ 葉身のフィトクロムによる遺伝子発現制御
    ・ プロトプラストを用いた細胞自律的フィトクロム応答の解析

 * 組織特異的発現による組織間シグナル伝達の解析
    ・ 葉肉phyBによる花芽形成制御
    ・ 維管束cry2による花芽形成制御
    ・ 葉肉細胞のフォトトロピンによる細胞自律的な柵状組織形成
    ・ 光屈性における空間的制御機構

 * 子葉のフィトクロムによる胚軸伸長の時空間的制御
    ・ フェムト秒レーザー顕微手術による避陰応答の時空間的解析

 
  子葉のフィトクロムによる全身的な光応答制御
  植物体としての光応答を理解するには、異なる組織・器官がどのように光に応答するのかを明らかにする必要がある。そこで我々は、他の研究機関よりエンハンサー系統の分与を受け、光に応答してレポーター遺伝子の発現が変化する系統のスクリーニングを行い、オーキシン応答性のCH3遺伝子がphyBの制御を受けることを示した(Tanaka et al., 2002b)。我々はこの研究を糸口として、器官間シグナル伝達による遺伝子発現制御の研究を展開することとなった。


* 胚軸におけるオーキシン応答遺伝子の発現制御

  光によるオーキシン応答性遺伝子の発現制御について、部分照射などの手法を用いて、子葉のphyBが不活性化されると胚軸においてオーキシン応答性遺伝子の発現が上昇することを明らかにした(Tanaka et al., 2002a)。すなわち、子葉のフィトクロムによりオーキシンを介して胚軸における遺伝子発現が制御されていることが示された。
       

* 葉身のフィトクロムによる遺伝子発現制御

  ロゼット葉は、避陰応答(植物の陰に入ることによりPfrレベルが低下することで起こる)によって、葉柄の伸長を促進する。そこで、共同研究によりDNAマイクロアレイを用いて、避陰応答による遺伝子発現の変化を、葉身と葉柄を分けて網羅的に調べた。その結果、ロゼット葉の避陰応答では、芽生えにおける子葉と胚軸でみられたような関係が、葉身と葉柄の間でもみられ、前者から後者へのオーキシンの移動が後者における遺伝子発現制御に重要な役割を果たすことが示された(Kozuka et al., 2010)。


* プロトプラストを用いた細胞自律的フィトクロム応答の解析

  組織/器官間シグナル伝達を含む個体レベルの応答を理解するためには、細胞レベルの応答を他の器官・組織からの影響を排除して調べる必要がある。そこで、シロイヌナズナのロゼット葉よりプロトプラストを調整し、避陰応答の有無を調べたところ、フィトクロムによるマーカー遺伝子の発現制御が再現された。さらに、この実験系を用いて細胞の外から加えた植物ホルモンの影響を調べたところ、オーキシンがその光応答を促進することが分かった(投稿準備中)。この実験系は、今後、組織/器官間のシグナル伝達を研究する上で、有力な道具となると期待される。


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  組織特異的発現による組織間シグナル伝達の解析
  フィトクロムやクリプトクロムなどの光受容体はほぼ全身で発現している。器官毎の光受容を調べるには、部分照射実験や、器官切除実験が有効であるが、組織毎の役割をこのような方法で調べるのは困難である。そこで我々は、シロイヌナズナのphyB欠損変異体にphyB-GFP融合タンパク質遺伝子を導入し、エンハンサートラップ法の原理に基づいて、phyB-GFP融合タンパク質を組織特異的に発現する系統を多数、作出した(Endo et al., 2005)。

 

* 葉肉phyBによる花芽形成制御

  シロイヌナズナではphyBが活性化されると花芽形成が遅延する。この結果、いわゆる避陰反応のひとつとして、他の植物の陰では花芽形成が早まる。上記の系統を用いて、どの組織のphyBが花成を遅延するか調べたところ、葉肉のphyBにのみ、そのような活性があることが分かった。ここで、phyBによる花芽形成遅延においては、花芽形成の鍵因子であるFT遺伝子の発現が抑制されることが知られていた。そこで、上記の系統でFT遺伝子の発現を組織を分離して調べたところ、葉肉のphyBは維管束におけるFT遺伝子発現を抑制していることが分かった(Endo et al., 2005)。以上の結果は、葉肉細胞から維管束細胞への未知のシグナル伝達が存在するこを示している。


* 維管束cry2による花芽形成制御

   シロイヌナズナではphyBに対してcry2が拮抗的に働き、花芽形成を促進することが知られている。また、cry2の下流でもFT遺伝子の発現が変化する。そこで、cry2-GFPを様々な組織特異的プロモーターを用いてシロイヌナズナのcry2変異体で発現させ、もともとの花成遅延表現型が相補されるかどうか調べた。その結果、phyBの場合とは対照的に、cry2-GFPは維管束で発現させたときのみ効果的であった。また、予想通り、維管束のcry2-GFPの働きで維管束のFT遺伝子の発現が促進された(Endo et al., 2007)。以上の結果は、同じ光受容体でありながら、phyBとcyr2は別の組織で花芽形成を制御していることを示している。

       

* 葉肉細胞のフォトトロピンによる細胞自律的な柵状組織形成

  我々はフォトトロピンが、葉の扁平化に加えて青色光による柵状組織分化を促進することを見出した。さらに、フォトトロピンを表皮または葉肉組織で発現させてその応答を観察したところ、柵状組織の分化は、葉肉細胞のフォトトロピンの細胞自律的な働きにより制御されていることが分かった(Kozuka et al., 2011)。
   

* 光屈性における空間的制御機構

  シロイヌナズナを材料に、双子葉植物の光屈性が、「どこで光を感知し」、「どこで情報伝達が担われ」、「どこで屈曲が起こるか」を詳細に調べた。その結果、シロイヌナズナでは光感受性部位と屈曲部位の両領域が芽生えの上部に限定されることを見出した。従って、幼葉鞘の先端部で光を感知し基部が屈曲するイネ科植物芽生えと異なり、双子葉植物の光屈性はより部位自律性が高いことが明らかとなった(Yamamoto et al., 2013)。

     


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  子葉のフィトクロムによる胚軸伸長の時空間的制御
  我々は、典型的な避陰応答である胚軸伸長の促進現象に注目して、その時空間的な制御機構の解析を続けている。これまでに我々は、部分照射や赤色光照射による遠赤色光効果打消し実験などにより、子葉のフィトクロムが夕方に不活性化されることで、明け方の胚軸伸長が著しく促進されることを示した(未発表)。現在、その分子機構についてより詳しい解析を続行中である。
    



* フェムト秒レーザー顕微手術による避陰応答の時空間的解析

  我々は、奈良先端大・細川陽一郎准教授らのグループと共同で、フェムト秒レーザーによる植物組織の顕微手術技術を開発し、シロイヌナズナ芽生えの葉柄部分に穿孔処理しその光応答を詳しく調べた。その結果、避陰応答の初期段階において、これまでの知見から関与が予想されるオーキシンに加えて、それとは別の未知シグナルが維管束を通じて子葉から胚軸の伸長部位へ伝えられることが分かった(未発表)。



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